ホーム > 日記 > よしだくん

よしだくん

  • 2011-06-10 (金) 23:23
  • 日記

私の親友によしだくんという男がいる。

原子力が明るい夢のエネルギーで、これで人類が幸せになると希望を抱いてその世界に入り、入ってみてほんとうはそうではなかったことが分かったとき、私ならどういう態度をとることができるだろうか? それを考えていて、よしだくんの就職のときのことを思い出した。

よしだくんとは高校2年の冬に知り合った。別々の高校に通っていたが、それ以来ずっと親友である。もう20年以上会っていないと思う。それでも、私の心の中にはいつでも彼の存在がある。いい加減なことをしたらよしだくんに笑われるという思いがある。世界中の人に認められても、よしだくんに笑われたら私は終わりである。だから親友なのである。にしだくんもそういう親友である。にしだくんは同じ学会に入っているのでしばしば会ってもよさそうなのだが、滅多に会わない。きっと親友だからだろう。

さて、よしだくん。
よしだくんは、私と同じ教育学部に通っていたが、教員になる道をやめ、ある業界トップの会社をうけて内定をもらった。しかしその後よしだくんは内定を辞退し、再び教員の道をめざし、高校の教員になった。聞けば、内定をもらってから、その業界のこと、会社のことをいろいろ調べた。もちろんその前にも調べてはいたのだろうけれども、もっと真剣にいろいろ調べたのである。そうすると多くの問題を抱えていることが分かった。そうして、そういう問題に会社はどのように対処しているかを会社に直接質した。例えば商品トラブルについて顧客から苦情があったときに、会社(の本音として)どういう態度・方針で接しているか等々。その答えが彼にはとうてい納得のいくものではなかった。顧客、一般の人のことをほんとうに大切にしているのではなく、会社を守ろうという姿勢が明らかだったからである。自分はこの会社では働けない。そう考えた彼は内定を辞退したのである。

それを聞いた私は、「今頃そんなことしたら、その会社も困るし、来年からうちの大学から採用してもらえなくなるかもしれへんやん。後輩も迷惑するやん。」と言ったように記憶している。

もちろんよしだくんはそんなことは百も承知で、それでも自分の誠意は、ここで働かないことだと判断したのである。そして彼は教員になった。教員になったことについては、私もよろこんだ。そもそもはじめから教員になってほしかったのだから。

よしだくんはその会社を糾弾する訳でもなく、市民運動をするわけでもなく、今でも日々生徒に英語と人生を教えているはずだ。はずだ、というのは、なんせ20年以上会っていないのである。ほんとうのことは分からない。しかしほんとうは私は知っている。よしだくんとは親友だからである。
よしだくんのこの価値観と生き方は、1人1人の若い感性に確実に刻まれていることだろう。

今回の原発のことを考えていて、改めてよしだくんの立派さを感じた。私ならきっと自分を誤魔化してその会社に入っていたに違いない。だからよしだくんのような親友がいてくれることを心からありがたいと思うのである。

ホーム > 日記 > よしだくん

カレンダー
« 2025 年 1月 »
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
最近の投稿
最近のコメント
カテゴリー
アーカイブ
リンク
中森康之研究室
武道部
俳文学会
現象学研究会

ページトップに戻る