日経ビジネス2012年4月9日号に「新入社員事件簿2012」という特集記事が載る。
私は日経ビジネスDigitalで見たのであるが、その中に、「息を吐くように嘘をつく」というのがあった。最近の若者がどんどん嘘つきになっていっているという実感を私はもたない。しかし嘘の質が少し変化してきたかもしれない、と思うことはある。
今日、武道部に新入生の見学者が4人来るのでちょっと解説をしに来てほしい、というメールが部長から来た。体調不良で休もうと思っていたのだが、メールをもらったので張り切って行った。すると1人しかいない。聞くと、昼間電話したときにには「今日行きます」と言ったという。急用でもできたのだろう。と思いたいところだが、その連絡もなかったようだし、その後の土曜日の稽古にも来なかったので、おそらく最初から来る気がなかったのに「行きます」と言ったのだろうと推察される。なんせ3人だし。
一昔前なら、「今日、ちょっと所用があって行けません。また今度行ける時に行きます」くらいの嘘が一般的だったと思うのだが、それがちょっと変わってきたのだろうか。
私がこのように考えるのは、これはもう数年前のことであるが、授業の受講生調整をしなければならないことがあった。それが予想されたので、事前に1回めの授業に出席するように掲示し、欠席した場合は受講できないことがあることも周知しておいた。果たして人数が多く調整をした。しかし1回めは欠席し、2回めの授業にやってきた学生がいた。事情とともに、「申し分けありませんが、1回めの授業で別の授業に行ってもらった学生がいるので、受講はできません」と説明した。2,3問答があったかも知れないが、彼は「分かりました」と行って出て行った。
ところが、履修登録名簿を見ると、彼の名前があり、翌週も彼はやってきた。「先週納得して出て行ったでしょ」というと、「あの場では「分かりました」と言わないと先生が納得しないのでそう言っただけです。」と彼は行った。彼は納得したのではなく、「先生の言っていることは理解しました」という意味で「分かりました」と言っただけだったのである。そしてとりあえずその場をおさめて履修登録をしてしまえばこっちのもんだ、と考えたようなのである。
これ以外にも、とりあえずその場に波風を立てない返事をされた経験がある。その時も、「「分かりました」と言っただけで、そうするつもりは全くなかった」と言われた。
それ以来、自分のコミュニケーション能力のなさを反省し、気を付けている。こんな事は、グローバル企業で海外の取引先と話をしていたら日常茶飯事らしいし。
今回の「行きます」は、私は直接関わらないが、おそらく同じなのだと思う訳である。とりあえず「行きます」と言っておけば、波風立たずに電話を切ることができる。そう考えたのだと思う。用事もないのに「用事があります」と言うのは後ろめたさがあったのかも知れない。
日経ビジネスに出ている具体例も、その場ではっきり「やりません」とか「イヤです」とは言わないという例である。おそらくそう言えばその理由などを説明しなければならないし、波風が立つからだろう。
冒頭にも書いたように、私は最近嘘つきが増えたのではなく、対立や争い、波風を極端に嫌うことと平行して、嘘の質も変化したと考えるのであるが、どうだろう?
蛇足ながら、もちろんそんな嘘は、後で大きな問題になることくらいちょっと考えれば誰でも分かるだろうと思われるかも知れない。もちろんそうである。しかしそれは、そうなるまでは考えないようにするのであるらしいのである。
もう一つ蛇足。
やはり私はこう言いたい。
約束は守れ!
しょっちゅう約束を破っている私が言う資格はないけれども……ね。でもこの質的変化は、人間と言葉に対する信頼を損ないかねないと思うのである。
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