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タイムリミット

今日はゼミ。

卒論や修論に関しては、毎回のように同じ事を繰り返している。

このペースでは間に合わない。

何に間に合わないかというと、卒業(修了)である。

研究には「いつまで」というタイムリミットは、ほんとうは「ない」。依頼原稿には締め切りがあるし、自分で投稿しようと思った原稿にもそれはある。本の出版も同じで、出版社の方と話を始めれば、いつ頃入稿という話になる。

しかし、それは目先のことであって、ほんとうはタイムリミットは「ない」のである。
敢えて言えば、自分が研究を「やめるとき」である。そしてそのときにどのくらい進んでいなければならないという客観的な基準もない。つまり、何をいつまでにどのくらいのレベルまでもっていくかは、「ない」のである。全てはあくまで結果に過ぎない。

今、ビジネスの世界でも、大学でも、目標を設定して、そこから逆算して今やるべきことを決めるという方法が流行っているようである。そしてその達成度なるものが評価される。
だが、少なくとも研究においては、ある研究を進めてゆくうちに、始める前は全く予期しなかったテーマが現前してくるのが普通である。だからほんとうは「逆算」できない。

だから私は、自分の仕事について、この「逆算」をしない。

なのに、学生には「卒業(修了)」のタイムリミットから逆算してものを言ってしまう。

これは猛省しなければなるまい。

これ以上「間に合わない、間に合わない」と言い続けていると、学生も私も壊れてしまうだろう。
少なくとも私は、もう毎日そのことが心から離れなくなってしまっている。ふと気がつけば、心の中で反復している。ルサンチマン状態である。そして身体中を掻きむしっている。

かなり危ない。

そこで、なぜ私は「間に合わない、間に合わない」と焦っているのかを考えた。
そもそも何に「間に合わない」のか。
それは最低年数での卒業に、である。

しかしよく考えてみたら、私は修士課程を修了するのに3年かけ、博士課程を単位取得退学するのに上限の6年を要している。
なのになぜ自分の指導する学生は、最低年限で卒業(修了)しなければならないと勝手に思い込んでいるのか。
少なくとも本人が何としてでも最低年数で卒業(修了)したいと考え、そのペースを指導してほしいと望んでいるのでなければ、私がそのようなことを考えるのは大きなお世話である。
そして何より、そもそも卒業(修了)ギリギリレベルの卒論(修論)なんて、私も学生も望んでいない。そんな低い志は私たちはもっていない。
いい研究がしたいし、いい論文を書きたい。ただそれだけだ。

やっとそのことに気付いた。

思えば私の師匠も、私を見て、じれったく思っていたに違いない。今でもそうだと思う。しかし何も言われない。
私が大学院に入ったときに言われたのは、ただ一度、「年に2本論文を書いていれば、私たちの学会では研究をしていないとは言われない。だからそのくらいのペースで書くようにね」ということだけであった。
そしてその達成度を評価されたこともない。言われたのも1度だけ。そしてたくさん書いても、1年間1本も書かなくても、何も言われたことがない。

同様のことがもう一度だけあった。
10年ほど前、「そろそろドクター論文まとめた方がいいかも知れないね」と言われたことがある。
これもただ一度。
それ以降、これまた一度も言われたことがない。昨年もお会いしたときに、「すみません。まだです」と申し上げたら、「焦ることはないよ。自分が納得するものを書く方が大切だよ」とおっしゃった。

竹田師匠も、私に何も言わない。院生の頃、一度だけ合宿の飲み会で「何やってるの」と言われたことがあるだけである。「何やっているの」とは早く本を書け、ということである。しかしそれから20年以上、何も言われたことがない。
私が長年不義理をしているP社のO氏も、私の原稿をただ黙って待って下さっている。
ほんとうに有り難い。
ただ私のような怠け者は、口うるさく言っていただいた方が有り難いのであるが、それはただの甘えである。

自分はそのように育てていただいているのに、学生には「間に合わない。間に合わない」とは、何たることか。

やはり、猛省に次ぐ猛省をしなければなるまい。

学生諸君には、大変申し訳ないことをした。

これからは、研究の内容に関する、前向きな話だけをすることにしよう。
きっと楽しいゼミになるはずである。

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