- 2009-04-22 (水) 16:07
- 読書
発売元: 文藝春秋
価格: ¥ 777
発売日: 2008/10/16
読んでいてとても嬉しくなった。宇津木さんのような指導者がいる限り、そしてそれを信頼する若者がいる限り、未来は明るい。
一本筋の通った人間の、強さと温かさがよく伝わってくる本である。指導者としても、修行者としても、とても参考になる。
上野選手争奪戦における行動、選手の叱り方、代表監督を引き受ける時の条件など、全てにおいて筋の通し方が見事である。
「私は妥協しないよ。監督に服従できない者は去ってもらう」と「監督宣言」しました。(61)
「おい、伊藤。ふざけるなッ。私がどういう監督か知っているよね」(47)
容赦なくやりました(62)
私は、こういう態度は絶対に許しません。(79)
厳し。
私は毎日選手にいろいろな話をしますが、ときには私の話が前日とは正反対に聞こえることもあると思います。(略)
また、ある時は練習前のストレッチをしながら、選手同士でおしゃべりをしていました。
「これから練習を始めようという時に、何をやってるんだっ、一日中、準備運動してろ!」
ろ本当に準備運動をさせました。
後になって聞くと、彼女たちにも言い分はあります。その選手たちは練習内容について話をしていたのだと言うのです。彼女らにしてみたら、まったく理不尽に怒る監督です。
しかし、そんな話には聞く耳を持ちません。私は「練習が始まったら一瞬たりとも気を抜くな」と言っているのです。勝つためには、「練習は試合と同じように、試合は練習と同じように」やらなければなりません。そのために全体で行う練習時間を短くしているのです。私に言わせれば監督に疑われるような態度を取った、それだけで自覚が足りません。
監督は選手に、「昨日はこう言ったけどね」とか、「君たちの言い分もよくわかるけど」などといちいち説明する必要はありません。物事はすべて、一言でいい表せるほど単純ではないのですから、監督が日々矛盾に満ちたことを言うのはむしろ当然です。(170)
しかし、この厳しさは、非常に繊細な神経に裏打ちされている。「人間」というものをほんとうによく知っておられる。そしてチーム作りや目標達成指導の技術もプロフェッショナルだ。そのことが本書を読むとよく分かる。
監督として、自分の人間としての限界にまでチャレンジし、人間として真正面から選手と向き合う。繊細、かつ温かく、そして厳しく。そしてプロフェッショナルな指導技術。どこにも妥協はない。
そんな宇津木さんのような指導者に出会った選手は本当に幸せだろう、と思う。