マスターズの試合には、ある種の暖かさがあるように思う。
もちろん厳しさもある。
Oさんの姿を見て、参加してくれた人たちはいろいろ感じてくれたようである。
とても嬉しい。
それを今後の人生に生かしてくれたらなお嬉しい。
マスターズにはOさんだけでなく、素晴らしい方が沢山出場されている。
小野くんもそういう方と出会うことができた。
昨年に引き続き型3部で優勝された辻田新吉選手(62歳)である。
Oさんの試合を待っている間に、たまたま向こうのコートの試合に目がいった。型が始まったとたん、そのコートの空気が変わり、会場全体の気がそこに引き寄せられた。それほど鬼気迫る型だった。
なぜか「小野」と頭に浮かんだので、
小野!、よく見とけ!
と言って、小野くんを見たら、小野くんは既に魅入っていた。
そして、一気にファンになったようだ。
心を鷲掴みにされた小野くんは、
名前を調べてきました!
辻田選手です!
と興奮して語った。
そして最後まで応援した。
さらに、優勝された後ロビーですれ違ったときに、「優勝おめでとうございます」と声をかけて、お話ができたと報告してくれた。後で聞いて、私もとても嬉しかった。
失礼ながら私は全然存じ上げなかったのであるが、北國新聞の記事によると、辻田さんは宮城県大和町からの参加で、「被災地を勇気づけるために何としても優勝したかった」と語られたという。自宅に津波の被害はなかったが、稽古場所の公民館が避難場所となり、電気やガスが復旧し生活が落ち着き始めた5月から練習を再開し、「被災したからこそ、大会に出場し好成績を地元に報告したい」と猛練習に励まれたという。「ふるさとが復興を遂げるまで、勝ち続けたい」とも語られたということである。
素晴らしいことだと思う。
私はほんとうはこの手の物語をあまり知りたくはない。どうしてもそれに引き摺られるからである。
こういう物語自体は、試合には関係がない。同じ思いをもって試合に臨み、それが叶わなかった選手もいれば、そういうことがなくいつも通りに稽古して優勝した選手もいたはずである。
辻田選手の場合は、それまでの修行の土台があって、その思いが型の中に具現化された。それが小野くんの魂に触れたのである。小野くんも私も、「去年も優勝した人だけど、今年の方がはるかに素晴らしいですね」と話していた絵実子さんも、そういう事情は知らなかった。
ただ現に今目の前で行われている型を見て、素晴らしいと感じただけである。
そして小野君はそれに魂を奪われた。
そのような型をされた辻田選手は大変素晴らしいと思う。
そして後でそういう事情を知ると、やはり素晴らしいと思うのである。
これから小野くんがどうなるか。
これまたとても楽しみである。
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