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第4回愛知県観光交流サミットin奥三河(2)今井彰氏講演

23日。
第4回愛知県観光交流サミットin奥三河 午後。

午後は特別記念講演。

〔特別記念講演〕
今井彰氏「日本人の底力~夢を叶えた仕事人達」
  作家・元NHKエグゼクティブプロデューサー
  『プロジェクトX~挑戦者たち』チーフプロデューサー


準備中

 涙が出そうになった。そして勇気と元気がでた。このような講演をきけて幸せだ。そう思った。
 一緒に行った武道部員と卒業生もみなそう感じたようだ。彼(女)らは全員、技術者とその卵である。講演が終わったときの彼(女)らの顔はとても明るかった。ほんとうに来てよかった、という表情をしていた。そしてこれから自分も頑張ろうというやる気に満ちた顔だった。

 その予感は講演前からあった。始まる前に購入した本を、講演前にみな一心不乱に読み始めたのである。今勉強中の学生。来年就職が決まっていて期待と不安の中にある学生。今会社で技術者として働いている卒業生。いろいろな思いを抱えてここにやってきた若い技術者(とその卵)たちの心に、今井さんの言葉が、そっと、そして確かに触れた。もちろん私の心も鷲掴みにされた。

 今井さんの話から私が受け取ったのは、日本を支えてきた日本の技術者たちの、「夢」と「誇り」と「技術力」の素晴らしさである。そしてそこに現れたリーダーたちの「人間」としての魅力である。

 「日本人の底力」とは、「人間力」溢れるリーダーのもと、「夢」と「誇り」と「技術力」をもった技術者たちが渾身の力を発揮したところにある。そう感じた。

 リーダーについては『ゆれるあなたに贈る言葉』(小学館)にもこう書かれている。

 プロジェクトXを通じて本物のリーダーたちの生き様を見てきた。個性や人生経験に裏打ちされたもので、表現は様々であったが、根底に流れる人間観、目標の見据え方、仕事へのこだわりなど、不思議に相似しているのである。
 最後に問われているのは人間力である。人を包み込む情であり、自分を受け止めてくれる器の大きさである。鬼や仏にはなれないが、人間力を磨き上げることは可能だ。(88頁)

 そして、そのリーダーについていった多くの無名の技術者たちは、高い技術力を持ち、高い志と夢を持ち、誇りを持っていた。それを可能にしたのが、「目の前のやるべきことをきちんとやりきる」という日本の多くの人が持っていた価値観ではなかったか。講演で紹介された「全島1万人 史上最大の脱出作戦~三原山噴火・13時間のドラマ~」における大島町役場助役秋田壽さんの言葉がそれを象徴している。

これまで30数年間、一生懸命コツコツやってきた。その積み重ねが、あの一晩で出た。

 秋田さんは、「あの一晩」のために仕事をしてこられたのではない。それは目的でもなんでもなかった。見事な脱出は、たまたま出た、それまでの30数年間の「積み重ね」の結果に過ぎなかったのである。もしあの脱出作戦がなかったら、秋田さんは注目されることもなく真面目な助役さんとして定年を迎え、勤めを終えられたであろう。たまたま脱出作戦があったから、その一晩でそれまで積み重ねてきたものを発揮されたのである。

 これが「日本人の底力」なのだと思う。その意味は、他にも秋田さんと同じような力をもっていながら、それを発揮する「あの一晩」には巡り合わずに退職された方が多勢おられたはずだということである。
 「底力」は普段は底に潜んでいる。そして「いざ」というときに出てくる「力」である。「いざ」がなければ潜んだままである。この多くの潜んだ力を持っていたことが、日本の底力であり、「日本人の底力」なのだと思う。

 私は日本文化論の授業で武道論を話しているが、それは日本の高度なもの作りを支えてきた価値観と、武道の価値観に同じ「思想」を見ているからである。先の秋田さんの言葉は、日本の武道修行の本質的な価値観と同じだと言ってよい。というのも、これがいきなり襲ってきた敵から我が身を守った武道家の談だったとしても何ら不自然ではないからである。

これまで30数年間、一生懸命コツコツやってきた。その積み重ねが、あの一晩で出た。

 武道の修行においては、日常の日々の生活こそもっとも大切な稽古だと考える。それがいざというときに出る「底力」だからである。武道においては、いついかなる時でもその場で発揮できる「底力」しか意味を持たない。戦いはいつどこで始まるか分からないからである。派手で楽しい稽古は、(自己)満足感とピーク時のある程度のハイパフォーマンスを生むかも知れないが、「底力」を養成しないゆえに、武道では役に立たないと否定される。

 武道における「底力」とは、同じことを毎日毎日一所懸命繰り返しやり抜く力の蓄積のことである。本物の武道家は、ひとたび「あの一晩」に巡り合ったなら、「出た」と言える「底力」を持つために、日々の生活を送っている。しかし何度も言うけれども、ほとんどの武道家は、「あの一晩」に巡り合わない。だからそれを発揮することもない。この、おそらく決して使わない「力」を養成するために何十年も修行を続けるのが武道の修行である。決して人を斬らないために剣を極めるという逆説が武道の価値観なのである。

 私は毎年、日本文化論の授業の最後に、西岡常一棟梁の次の言葉を学生に贈ることにしている。

与えられた今の仕事を一生懸命やりなはれ。手を抜かずにちゃんとやってみなはれ。そうすれば見えてくるものがありまっせ。

 彼(女)らは、個性を重視し、主体を大切にし、やりたいことを求め、「楽しみ」が強調される価値観の中で育ってきた。技術者教育においては、「これからの技術者はマネジメント能力が必要である」「これからの技術者は経営センスが必要である」「これからはイノベーションを起こせる技術者が求められている」「これからはグローバルな技術者が求められている」と繰り返し言われ続けている。もちろん私は、その全てを否定する訳ではない。ただ残念ながらそのような価値観からは、秋田さんの言葉は生まれないのではないかと危惧しているだけである。それはつまり、「日本人の底力」の「底」が割れるのではないかという危惧である。
 そういう価値観の中で育ったにも関わらず(本当は「育った故に」と言うべきである)、それが叶わず、自信をなくし、不安を抱える者も多い。それを隠すために、虚勢を張り、心を閉ざしている者もいる。しかしほとんどの者は、まさしく今井さんが渾身の力で制作された、『プロジェクトX』に出てくるような、名もなき技術者に憧れと誇りをもって技術者になろうとしたのである。そして今もなおその熱い「心」を持っていることを、私は信じて疑わない。
 私は技術者教育に関わる者として、彼(女)らが、その「心」を生かし、夢と誇りと志をもって、自分の技術を発揮できることを心から願っている。そしてそれがまさしく「底力」となって、ほんとうにいいものを作ってくれることを願っているのである。そして、そこから「人間力」溢れるリーダーも生まれ、真にイノベーティブな技術者も生まれると信じているのである。

 さて、講演終了後は、全員今井さんの御著書にサインをして頂き、しっかりと握手をしていただいた。その時のお言葉もそれぞれの心に響いたようである。


恒例の感想会。いつもの場所でいつも以上に盛り上がりました。

 寺子屋番外編in加賀(1)(2)(3)(4)、愛知県観光交流サミットin奥三河、と立て続けにとびきりの経験ができた。
 ほんとうに感謝である。特に小野くんは、これが人生の転機となったはずである。そうでなければ彼の人生は嘘だ。ここ数日、そのくらいもうれつに変化している。他の人も同じである。武道部、方寸塾は確実に今、地盤が動いている。もうちょっとでブレークスルーするはずだ。

 それにしても、in加賀といい、in奥三河といい、参加できなかった人はとても残念である。事情があってやむなく参加できなかったのではあるが、ぜひ経験してもらいたかったと思う。特にくり坊には講演を聞かせたかった。

 『プロジェクトX』をまた見たくなって、講演会の翌日DVDを2本見た。
 移動中の車の中では、中島みゆきさんの「地上の星」が延々とリピートされている。
 学生の車内、iPhoneも同じだと聞いた。

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