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限界線

 尚志館館長が古傷を少し痛めたらしい。大したことはないようなので安心した。
 私は稽古中の怪我は指導者の責任であると教えられてきたし、教えても来た。そして稽古中に怪我をしてはいけない、と。ほとんどの怪我は油断が原因であるし、稽古中に道場生が油断をするのは指導者の責任であることは間違いないからである。
 館長自身もそう考えているので、非常に反省していた。僅かな油断があったのは確かだろう。だが今回は、ただの油断ではないと思う。
 このブログでも何度か書いたように、今回の演武会のテーマは「全身全霊」であり、出演者は卒業生や招待演武者も含め、みな自分の限界にチャレンジしている。そこにチャレンジし続けた者だけが出演できる演武会を目指しているのである。
 館長も例外ではない。むしろ、トップレベルのチャレンジをしている。もともと痛めた箇所は、大昔の組手試合で痛めた箇所で、疲労が蓄積したり、無理な動きをすると再発することは、館長自身がよく分かっている。だから長い間再発していないにもかかわらず、今でも毎回の稽古で、細心の注意を払ってケアしているのである。それが今回痛めたということは、自分の限界を超えて稽古していたということである。もちろん自分の限界はよく分かっていたはずだが、そのギリギリのところでチャレンジしているうちに、ちょっとだけ限界線を越えてしまったのである。
 幸い大した怪我ではない。本人は「一週間で治す」と言っていた(彼女は「治る」とは言わないのである)。だから敢えて言えば、今回だけは、そして館長に限って言えば、むしろよかったと思う。そういう限界線ギリギリでチャレンジしないと得られないものがある。怪我の直前に見た形は非常によかった。彼女はこれからも限界ギリギリでチャレンジするだろう。そして露ほどの油断もすることなく、もう痛めることもないだろう。そこまで追い込むのは、大会で優勝を重ねていた頃以来である。だかもうそのころとはレベルが違う。久しぶりに、いや最高に感動する形を見せてくれるに違いない。
 感動といえば、尚志館で見せてくれた幸美さんのヌンチャクは「かっこいい~」と思った。茶帯であれだけ振れれば大したものだ。彼女の素晴らしいのは、実行委員長の仕事もさることながら、稽古中に指摘したことを次の稽古までに必ず修正してくることである。指摘と言っても、「杖、下手やのお~」とか「もっと、ブンッと振れ」といった程度である。彼女はそれをレベルアップしてくるのだ。だから次の稽古ではさらにハイレベルの課題を出し、その稽古ができるのである。彼女のヌンチャク試割は、演武会の必見演目の一つである。
 他の出演者たちも、みなそれぞれギリギリのチャレンジをしている。石井くんも池尾くんも大畑くんも、ここのところかなり上達してきた。東くんは最後の壁にかなり苦しんでいるが、あと一歩のところまで来ているだろう。白帯もかなり頑張っている。
 私もこの前の土曜日に、ようやく二つの課題が克服できたので、演武できることになった。感覚は掴んだので、あとはいつでも出来るように稽古あるのみである。

 出演者のみなさん、怪我だけは絶対にしないようにしてくださいね~。

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