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古武道審査とチンパンジー

  • 2010-11-27 (土) 23:29
  • 日記

27日。
武道部の古武道審査。全員無事合格。審査を見ていて、改めて「継続の威力」を感じた。そして好きになることの大切さ。キャリアに応じて上手くなっているし、今度上級に合格した部員は古武道が好きで、演武会などでも結構やっている。
 ただし、このあたりが今の限界だろう。そしてここを乗り越えれば、いよいよ黒帯である。素手でも武器を持っても、そこにはその人自身が現れる。素手の形が丁寧な人は、古武道の形も丁寧だし、つまりはその人が丁寧な人間だということである。そういう人は、万事が丁寧なのである。
 素手の稽古から逃げて古武道に走った人もいる。稽古をすればそれなりに上手くなるが、そこに現れる自分自身は誤魔化すことができない。今の自分という人間の枠をうまく突破できれば、素手も古武道も一挙に上達する。それが次の審査までの課題となるだろう。講演会にいくのもその一つである。
昼食を学食で皆と一緒にとって、午後からその講演会へ。今回は松沢哲郎氏(京都大学霊長類研究所所長)の「チンパンジーから見た世界」。ものづくりフェア2010in東三河記念講演・(豊橋技術科学大学)榊プロデュース 第9回プレステージレクチャーズの講演である。武道部からは17名が参加。
 「人間とは何か」を考える上でも、「教育」を考える上でも、武道の修行について考える上でも、また自分の生き方を考える上でも、非常に刺激的な内容だった。
 私は、恥ずかしながら「四手動物」という概念を初めて知った。今まで足だとばかり思っていたけど、実は手だったのね。この問題は「歩く」「走る」を考える上でも、非常に示唆的である。
 またチンパンジーの「教えない教育・見習う学習」は、徒弟制度に近く、私が提唱している「逆説の教育」に通じるものである。
だが大きな違いがある。松沢さんは、チンパンジーは「今、ここ」を生きているのに対して、人間は、想像力の空間的・時間的スパンが大きいゆえに、希望も絶望もある、とおっしゃった。そこが「人間」なのだと。その通りだと思う。
 親の石器を使う様をじっと見習っている子どもチンパンジーは、4~5歳まではそれを習得できないそうだ。つまり、4~5年間何も教えてもらえず、ただただ見て真似るのである。そして「今・ここ」を生き、将来を絶望しないチンパンジーでさえ、ある限界を超えると、習得を諦めてしまう子もいるのだそうだ。
 まして、余計なことをごちゃごちゃ考え、目の前のことに一喜一憂し、時に絶望したり、歪んだり、ルサンチマンをもったりしてしまう人間にとって、この「教えない教育・見習う学習」は大変難しい。しかしそれにも関わらず、これこそが教育の原点なのである。限に、今でも高度な技術を伝承する所では、例外なくこの教育法が採用されている。それを私は「逆説の教育」という言い方で提唱しているのである。
 「逆説の教育」においては、「動機」が非常に重要となる。まず、そのことをやりたい、それに憧れるということが大前提である。これはチンパンジーも同じだろう。だがチンパンジーと違って人間は、それを継続する動機を求めたくなる。普通は、それをやり続けることによって、さらにそれをやることが面白くなってゆくという、自動自己動機増殖システムが働く。だから親や教育者には、それがうまく働く環境作りが求められる。「この環境において、目の前のことをきちんとやり続ければ、自分にも出来るようになるかもしれない」と心底信じられる雰囲気の中で、やればやるほどもっとやりたくなるような環境である。
 そして松沢さんが、「人間」の特徴としておっしゃった、「手をさしのべる」。いいタイミングでうまく手を出すことが、非常に重要である。これについては、明日の小川さんのところで述べることになるだろう。

 もう一つ、チンパンジーと人間には、言葉の違いがある。人間は高度な言語能力を持つゆえに、高度な技術も可能なのだと思う。しかし、その高度な技術を身に付けるためには、その言語を捨てなければならない(言語から自由にならなければならない)という逆説が存する。師匠の技術は、言葉を離れ、生身の人間に即したところからしか、弟子の中に再生されることはない。

そんなこんなで、いろいろ考えることのできた講演会だった。
終了後、急いで尚志館へ。その後、講演の感想食事会。これまた全員、いろいろなことを感じたようで、楽しかった。
参加した部員は、非常に得るものが大きかったと思う。それを自分のものにできれば、参加しなかった部員がとても悔しがりますよ~

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