中森康之ブログ
小川三夫さん講演会
- 2009-10-10 (土)
- 日記
特別な三連休、一日め。
10月10日。
平成21年度いなべ市生涯学習事業 歴史と文化の講座で、鵤工舎設立者の小川三夫さんの講演会「木のいのち 木のこころ-技を伝え、人を育てる-」があった。言わずと知れた法隆寺宮大工西岡常一棟梁の唯一の内弟子をされた方である。日本文化論Ⅰ聴講生Nさんに紹介していただいた。残念ながら日本文化論Ⅰの受講生は誰も来なかったが、方寸塾生、武道部員が14名ほど参加した。
この講演会は私にとって驚きと感動の連続だった。
最初に驚いたのは手だ。小川さんの手は、とても柔らかく神経の行き届いた「生きた手」だった。もうそれをナマで見られただけで大感激し、講演が始まる前からかなり興奮してしまった。あのくらい「生きた手」であってこそ、木のいのちを感じ、生かすことが出来るのだろう。それにしても凄かった。
にこやかに会場に入って来られた小川さんは、本でイメージしたよりも、人当たりのよい優しい感じがした。しかし時折非常に厳しい表情もされた。
正中線は屹立しており、尋常でない腹の据わりである。そしてあの柔らかい生きた手。
これほどの人の前に出たら、こちらが素直になるしかない。誤魔化しても無駄である。幸い講演修了後、控え室でご挨拶させていただき、お話をして頂いた。小川さんは余計な言葉も行動も一切ない。必要最低限のことだけである。しかしその一つ一つが、実に温かい心に満ちていた。
それで察せよ
西岡棟梁の教えを見事に受け継いでおられる。どのくらい私が察せられたのか甚だ心許ないが、ただ言えるのは、小川さんの前で私の心は裸になっていたということである。
話を講演に戻す。講演で何より驚いたのは、小川さんの話が進むにつれて、会場の空気が一つになったことである。始まる前に司会の方が、「講演中はなるべく席を立たないようにお願いします」とおっしゃっていたので、そういうこともよくあるのだろう。私は一番前に座っていたが、講演中、後ろの空気が全くざわつかなかった。全員の気がまっすぐに小川さんに集まっていた。これぞ法隆寺口伝、
百工あれば百念あり、これをひとつに統ぶる。これ匠長の器量なり。百論ひとつに止まる、これ正なり。
を実践して見せて下さったのである。これが小川三夫棟梁の器なのである。講演の内容もとても面白く勉強になったのだが、これには度肝を抜かれたという他ない。決して流暢に話す訳でもなく、ユーモアを交えるでもなく、プレゼンのテクニック本とは正反対の、ただただ自然体で話をされただけなのである。そこには余計な装飾など一切ない。くしくもTくんが言った。
小川さんそのものが法隆寺みたいな方ですね
その通りだと思う。余計な装飾が全くなく、ただ自然体でそこに立っておられる。その姿そのものが美しい。だから言葉にほんとうの力が宿るのである。そこには自分をよく見せようとか、聴衆を満足させようとか、そんなことが一切ない。ただただ自分ができる話を、自分ができるように、そのまま話されたのである。「それ以外に何が出来る?」と言われるかも知れないが、それをこれほど見事に実践する人を私は見たことがない。
おそらくほとんどの聴衆は、小川さんの言葉が、自分の心のどのくらい深くにまで届いたのか気づかなかったのではないだろうか。少なくとも私は、このとき、その深度をよく分かっていなかった。
ほんとうの力を宿した美しい言葉は、外ではなく内から影響を与える。だから必要以上に「大袈裟な感動」は与えない。内から湧き上がる静かな感動と幸せを与えるのである。だから良質の温泉のように、芯から温まり冷めにくい。実はこのエントリーは三日後に書いているのだが、私はまだ興奮している。というより、時間がたつにつれて興奮が増してきているのである。私が思った以上に、小川さんの存在は、私の深くまで届いていたのである。
部員たちも、それまでと全く違っていた。小川さんと話を終えて控え室から出てきた私を待っていた部員たちを見て、びっくりした。全員が静かに感動していたのがありありと分かった。そしてピュアな心が一つになって、私を待っていたのである。
講演会後の行動やもらったメールから、みながどのくらい深く小川さんの存在と言葉を受け止めたかがよくわかる。例えばKさん。Kさんは私と一緒に控え室に入り、私と小川さんの話を聞いていた。私に遅れないようについてきたら、気づいたら部屋の中だったという。それまでのKさんなら、「自分が部屋に入っていいのだろうか?」と考えて、躊躇し、部屋の外で待っていたはずだ。「やらなければいけないこと」「やってはいけないこと」を頭で強く考えてしまい、それが上達の妨げになることがしばしばあったのだが、この時はただひたすら心を空(くう)にして、私の「気」を感じて、その感覚に惹かれるように行動したのである。
これまで、Kさんだけではなく、私は部員と行動するとき、いつでも「重さ(抵抗)」を感じていた。何と言えばいいだろう。私の気(期待)と部員の気(行動)がゴム紐で繋がっているとすると、いつでもそれが引っ張られた状態で、抵抗が生じていたのである。いつでもこちらが引っ張らなければならず、それが「重い」のである。しかし講演会後のKさんは、ゴムが適度に緩んでいて、それが引っ張られることが一度もなかった。抵抗や違和感を全く感じず、Kさんといてとても心地よかった。私があることを期待する直前に、いるべきところにいて、とるべき行動をとっていた。まさに植芝先生に桶を出す塩田さん状態だったのである(このエピソードを知らない方も多いかも知れませんが)。
鵤工舎での修業は10年間で、修行の意味が分かっていてきちんと修行した弟子は、7年目あたりから急成長するという。Kさんは武道を始めて丁度7年目である。これまで本当に必死に、「それで察せよ」という修行をしてきた。この講演会でブレークスルーして、今後急成長することは間違いない。ほんとうに嬉しく思う。
それにしても、Kさんをこれほど変えてしまう小川さんの存在の凄さを感じずにはいられない。もちろんKさんだけではない。多かれ少なかれ、部員全員が同じように変わった。願わくば元に戻ることなく、それが続きますように、と祈っている。
小川さんを駐車場でお見送りした後、Nさんの豪邸に御招待頂いて、楽しいひとときを過ごした。その後部員の感想会に合流したが、電車時間の都合でほとんど話が出来なかったのが残念だった。
しかし私たちにとって特別な一日となったことだけは間違いない
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台風18号
- 2009-10-08 (木)
- 日記
お電話頂いた方もあるので、一応現状を書いておく。
豊橋でもいろいろ被害があったようだが、私自身には幸い特に被害はなかった。朝方、数時間の停電と断水したくらいである。
ただ隣りの棟の銀杏の木が倒れた。
10時頃大学に行ったが、ほとんどの信号が停電で消えており、飛ばされた看板も目に付いた(建物に備え付けの看板も、いくつか壊れていた)。
大学の中庭の木も倒れてた。
ご心配頂いた方、ありがとうございました。
被害に遭われた方には心よりお見舞い申し上げます。
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とよはし中日文化センター(こども空手・剛柔流)
- 2009-10-07 (水)
- 武道部
絵実子さんの、とよはし中日文化センターの空手教室(こども空手・剛柔流)が始まった。
秋の新講座
二面鏡張りの広くて綺麗な教室。絵実子先生は、さすがに手慣れたもので、子どもの心をうまく掴んで、楽しく、かつきちんとした指導をしていた。
子どもたちも初めは緊張していたが、だんだん元気が出てきて、帰りの挨拶の時には、目を輝かせて帰って行った。
尚志館とはまた違った雰囲気の、とてもよい教室になるだろうと思う。
興味のある方は、ぜひ一度覗いてみて下さいね。
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本人が満足してるんだからいいんじゃないの?
- 2009-10-06 (火)
- 武道部
心配な黒帯がいる。かなり姿勢が崩れているのだ。もう随分と前からその傾向があったが、ここのところかなり顕著になってきたのである。もちろんそれとなくは伝えてきたが、私としてはずっとがまんして見守ってきた。半年や1年のことではないので、とうとう我慢がしきれなくなって絵実子さんに、「はっきり言った方がいいかなあ?」と軽く言った。
本人がそれで満足してるんだから、いいんじゃないの?
恐れ入りました。なるほど。本人が現状に満足しているのであれば言っても聞こえないし、満足していなのであれば、言わなくてもそのうち気づいて、自分で修正するか、向こうから聞きに来る。それまでほっとくしかないでしょ、という訳だ。
それにしても、「本人がそれで満足している」。慧眼という他ない。
絵実子さんは私なんかよりよほど腹が据わっているのである。
福井県古俳書大観第九編
- 2009-10-05 (月)
- 研究
少し前に齋藤耕子氏の『福井県古俳書大観第九編』が刊行された。このシリーズは文字通り福井県の俳人の載る俳書を翻刻しているものであるが、その数なんと全320冊余(うち50冊は全冊翻刻)。
齋藤さんはそれ以外にも、『福井県俳人大観』『芭蕉塚物語』『若越俳人列伝』など計20冊以上を自費出版しておられる。さらに若越俳史研究会の機関誌「若越俳史」もすでに116号に達している。大正14年生まれ。驚くべき活力である。
俳諧研究には一つの地方にこだわり、それを徹底的に研究している方が何人かおられる。その代表が前に書いた田坂さんや齋藤さんである。齋藤さんの仕事は、地道に集めた福井県の俳諧資料を翻刻紹介することと、それをもとに福井県に関する従来の俳諧史研究の誤謬を正すものである。地方の俳書は膨大である。また地方に密着しておりその地方でないとよく分からないことも少なくない。その意味でも、私のように支考と美濃派を研究する者にとって非常に有難いのはもちろんのこと、俳諧史研究全般において非常に重要な仕事なのである。
これからも、まだまだ精力的に続けて頂きたいと切に願っている。
蝶夢と支考
- 2009-09-30 (水)
- 研究
昨日は武雄から戻った後T先生と打ち合わせ。
なんとお宅にご案内頂いて、書斎まで拝見させて頂いた。感無量。いろいろ貴重なお話を伺う。
蝶夢や支考の話はもちろんのこと、これまで存じ上げなかった先生の一面も垣間見られて、とても貴重な時間を過ごすことができた。
思想的には、蝶夢は支考の直系である。
このことが今の学会でどのくらい認められるのであろうか。なるべく早くそのことを論証したいと思う。
武雄と川古の大楠
- 2009-09-29 (火)
- 日記
今日はT先生と蝶夢関係の打ち合わせ。それまで少し時間があったので、武雄に大楠を見に言ってきた。
川古の大楠。推定樹齢3千年、幹周21m、樹高25m、根周り33mと書いてある。全国第五位の巨木だそうだ。
さすがに大きい。うろうろ歩き回り、そっと手を近づけてみる。今日は右手の方が感度がいいようだ。タクシーで来て運転手さんに待ってもらっていたのだが、その運転手さんも降りてきて眺めておられた。ふと、こうおっしゃった。
武雄にもう一つあるんですけどねえ。あっちの方が大きいように思うんですけど。
えっ? 勉強不足で全然知らなかった。
そっちも公園になってるんですか?
いえ、そっちは自然のままです。柵はしてありますけどね。
ということで行ってもらいました。
タクシーを降りて、なだらかな山道を数分歩くと、突然目の前に巨木が現れた。
驚いた。
いのちだ。
大きさなんてもうどうでもいい。
しばらくその姿を見せてもらった後、タクシーで駅まで行ってもらって、特急に飛び乗って佐賀に戻りました。
武雄の大楠。武雄神社のご神木とある。幹周20m、樹高30m、全国第6位の巨木だそうだ。
ようやく会えた
- 2009-09-28 (月)
- 研究
九州大学中央図書館へ。
院生の頃から存在を知っていて、コピーも持っている本と初めてのご対面。ようやく会えた。
しばらく感慨にふける。
そっと開いてみた。
思ったよりきれいな本だった。
何とも言えず懐かしい。
長年恋い焦がれたこの本、名を『俳諧十論弁秘抄』という。支考『俳諧十論』の注釈書である。
私の知る限り、『俳諧十論』研究はもちろん、支考研究に使われたことがない。私も使わなかった。だが私の知る限り『俳諧十論』を最も深くかつ正確に理解している注釈書なのである。当たり前だ。実はこの本の内容は、「十論講」、つまり支考自身による『俳諧十論』講義の講義メモ、又は支考の講義ノートを元に書かれた講義録なのである。もちろん本文は支考自身ではなく弟子筋によるもの(の写し)である。
私の初めての学会発表は、それまで誰も注目しなかった「先後」という言葉に注目し、それを解読したものであるが、この本はその「先後」という語も取り上げて注釈している。当時はこの本のことがよく分からなかったので、「なかなかいい注釈書じゃないか」程度に思っただけで、その発表でもうまく使えなかった。
それ以降もこの本を使わなかった。というよりきちんと読まなかった。この本は支考の考えを実によく伝えるものであるが、それ故に、そのまま使っても当時の学会では受け入れられないと考えたからである。それほど支考の思想(俳諧観)は誤解され、受け入れられていなかったのであるが、しかし要するに私にはこの本を有効に使う力がなかったのである。
それでずっとそのままになっていた。しかし、この本の意味付けを行うのは、私の役割であり責任なのだということだけは思い続けてきた。そこで少し前から、ある方と一緒にこの本を通読し、最近読み終えた。そして今回、意を決して会いに行ったのである。
ちゃんと読んでから会いたかった。
図書館の方にもとても親切にして頂きました。
調査の後、佐賀へ移動。もう何回めになるかなあ、と思いながらいつものお店で夕食をとった。いつもながらとても美味しくいただきました。
博多
- 2009-09-27 (日)
- 日記
今日から九州出張。
今日は博多で高専連携教育研究プロジェクトの打ち合わせ。焼山先生と、日本語コミュニケーションの方の打ち合わせをする。
遠慮無くどんどん意見を言ったので、中身の濃い打ち合わせとなった。が、ちょっと失礼が過ぎたかもと反省。
でも終了後は、地元の人が行く長浜のラーメン屋さんに案内してもらいました。とても美味しく頂きました。
明日は九大です。
やっぱりあった、図録
- 2009-09-23 (水)
- 日記
一昨日蓑虫庵で買って帰った図録、やはり持ってました。4冊のうち3冊。
でも一冊持ってなかったのが手に入ったのでラッキーです。
1勝3敗なら上出来です。僕にしては。
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